『若者とともに未来をつくる ―短期大学教育の現状から―』レポート
159回目となるゲストは大阪キリスト教短期大学学長の池田美芽さん。
教育現場で日々感じておられることを、柔和で穏やかな語り口でお話しいただきました。
「若い頃、私自身がどうであったか?と、過去の経験を受け取りなおします」
という言葉が印象に残る講演会でした。
■ 第一部・・・「トンカチバンド」による音楽ステージ
VIP定例会でおなじみの「トンカチバンド」裁判官の谷有恒さんと、彩門ぺー太こと俵敬三さんのユニットが出演。本日の講師である池田美芽さんと同じ県立奈良高校の聖書研究会のメンバーという旧知の間柄で、池田さんの熱いリクエストにより「トンカチバンド」のステージが始まりました。
生きる意味さえ(作詞・作曲/俵敬三)
素晴しい人生(作詞・作曲/俵敬三)
働こう(作詞・作曲/俵敬三)
3曲目の「働こう」は、東日本大震災をきっかけに生まれた新曲。「失われた仕事を取り戻そう。できることから何かを始めよう」という願いを込めて創られました。
♪働こう 悲しみが すべてのものを重く覆い隠して
流れる涙が頬をつたい落ちても
働こう 人生に 勝敗なんてありはしないと思うけど
ただこのことに負けたくはないから。
■ 第二部・・・『若者とともに未来をつくる ―短期大学教育の現状から―』
● 池田美芽(いけだみめ)さんのプロフィール
1958年大阪生まれ。大阪大学文学部、大阪大学大学院で哲学を学ぶ。大阪府立高校教諭を経て1992年より大阪キリスト教短期大学専任講師。2011年大阪キリスト教短期大学教授、2012年10月より大阪キリスト教短期大学学長に就任。専門は西洋哲学・倫理学、キェルケゴールの宗教思想など。家族は夫と息子2人。著書『キェルケゴールの女性論/創言社』など。
■ 生きる意味を求めて
私には、「何のためにこの命を授かったのか?」という疑問が10歳の頃からありました。
そして、“それは真理だ”というインスピレーションが14歳の時に与えられたのです。
県立奈良高校に進学し、聖書研究会に先輩としていらっしゃったのが谷さんと俵さんです。
おふたりの証と賛美を聞いているうちに、“何か違う”と直感し、真理に近いものを持っているのではと心惹かれました。その年のクリスマスに両先輩に導かれるように奈良福音教会の集会に出席し、1977年に受洗しました。今こうして、同じ場所でご奉仕させていただくことに感謝いたします。
私は勉強することが好きで大学、大学院と哲学を研究しました。大学院生の時、あるきっかけから大阪の府立高校の非常勤講師として教壇に立つ機会が与えられ、生徒たちと接するよろこびを感じました。苦手とばかり思っていた教えることが、行動することで好きになっていたのです。それから、6年間の高校教員生活を送らせていただくことになりました。
■ いつの時代の若者も人生に迷っている
大阪キリスト教短期大学は、いま話題のあべのハルカスから歩いて15分ぐらいのところにあります。1992年より当大学の教鞭をとり、2012年10月より学長に就任しました。
いつの時代に生まれても、若者に迷いや悩みはつきものです。一見屈託なく学生生活を楽しんでいるようですが、学生たちは人間関係や恋愛、就職などの不安や悩みを抱えています。
「小粒になった」「何を考えているかわからない」と言われることがありますが、時代が変わっても、学生の本質は変わっていないように思います。
今と昔の決定的な違いは、核家族化により子ども達がおかれる環境が変化したことです。
子どもが両親や先生以外の大人たちと接する機会が少なく、壁を感じたり、折り合いをつけたりする経験が乏しいことがあげられます。当校には幼児教育学科がありますが、赤ちゃんを抱いた経験のない女子学生が多いのに驚き、核家族化が進んでいることを実感しています。現代の大学生は社会的訓練の質と量が少なく、昭和30年代の高校生と同じぐらいの経験値になるのではないでしょうか。ひと昔前、女性の四大進学率はわずか12%で、短期大学はその倍ほどありました。四大女子というだけで、エリートというイメージがあったぐらいです。
「女性は25歳を過ぎたら、クリスマスケーキ」といわれた時代があり、四年制大学に進むということは結婚を放棄するぐらいの覚悟が必要だったのです。今では女性だからといった心理的な抵抗もなく、一人っ子が多くなったため一人当たりの学費は増加傾向にあります。現在は、女子の四年制大学進学率が44%、短期大学は11%と逆転しています。
■ 若者と共に未来をつくる
学生と接して気になることは、これまでの人生で選択や決断をしないままに進んできたことです。オープンキャンパスとは、学校側がキャンパスを公開し受験希望者に対して行う説明会のことですが、その参加者の8割が親御さんです。その時、質問するのも圧倒的に親御さんからで、学生生活や就職のことまでとにかく熱心です。隣で静かに座っている学生の気持ちはどうなんだろう?と気がかりに思うことさえあります。この様子から、これまでの進路を先生や親まかせで決めてきたことがうかがえるからです。「親に心配をかけたくない」ということが最優先でいいのか。本当に自分は何をやりたいのか?を考えたことがないということが多々あります。偏差値で輪切りにされてきた経験のせいでしょうか。学生自身が自分の可能性を決めつけてしまう傾向があるように感じています。学生が大きな壁にぶち当たるのは、就職活動の時です。自分で選択し、決断する力がいかに大切であるかということを思い知らされることになるからです。
人は、人との出会いで変わっていくものです。自ら壁をつくってしまうのではなく、新たな自分を発見するために、もっと行動をおこしてほしいと思います。私たち教師に何ができるのかと考えたところ、「若い頃、私自身がどうであったか?」「どう助けてもらったのか?」と振り返る必要があると思います。これは、私が専門分野とするキェルケゴールの考えでもありますが、自分が過去に与えられた経験を、新たな意味や味わいや重さをもって受け取りなおすことを大切に考えています。そして、学生一人ひとりの名で語りかけ、がんばっているプロセスを見守り、応援していきたいと思います。
私たちは今も青春の日々を抱えています。先に披露してくださったトンカチバンドのハーモニーは、19歳の頃の私を心からはげましてくれました。いま現在も、学生のなかに美しいものを見い出し、私自身がはげまされています。学生の伸びゆく姿ほどまぶしく、うれしいことはありません。
▼ 参加者の声/有限会社日新ドキュメントサービス 代表取締役 今井和典さん
『若者と共に未来をつくる』と結ばれた講演は、とてもさわやかな気持ちになりました。
年長者の目線で見る今の若者、学生の気質はあまり良い評価が聞こえてきません。
日々、学生達と接しておられる池田先生は、『若者の本質は変わっていない』と前向きな評価をされています。キャンパスではフルネームで学生達に声をかけられる様子は、未来を担う若者達への期待が込められていると感じました。これは正に『神の愛』の実践者であると思いました。
- 2013.08.27 Tuesday
- VIP大阪_講演レポート
- 22:55
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- by VIP関西